日本経済新聞

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丸の内officeオフィス街の本屋さん>高頭 佐和子さん(一般書担当)

オフィス街の本屋さん

翼

翼 光文社 1,260円

親友の婚約者から結婚しようと言われた女性が主人公。親友にはプロポーズされたことは打ち明けず、そのまま絶縁状態になった彼女と彼が、10年後に再会するところから物語が始まります。親友の夫である彼と不倫でどろどろになっていくというような一般的な展開はせず、独特なムードが漂っています。読み進めていくうちに、彼女の心にも彼の心にも深い孤独があること、それは自分の中にもあるということに気づかされます。「小説を読んで人生が変わる」ことは、ふだんはほとんどありませんが、本作を読んで恋愛観や人生観が変わりました。そんな力を持った小説です。決して他人にはさらしたくない部分をもって生きている大人の人に読んでほしいで


夢違

夢違 角川書店 1,890円

背筋がぞっとするような怖い小説です。途中でやめるともっと怖くなりそうなので一気に読みました。別世界の話という感じはせず、リアルな世界を舞台にしているので怖さが増します。自分の夢を記録して他人に見せたり、他人が見た夢を自分も見ることができるようになった近未来が舞台です。主人公は夢を見て解析するのが仕事。小学校で昼間に生徒たちが同じ夢を見るという事件が起こり、その解析を依頼されます。死んだといわれている行方不明の女性が目撃されるのは、夢のなのか、現実なのか。恐ろしい話ですが、嫌な読後感はありません。作者の恩田陸さん独特の幻想的なムードが漂うなか、本の世界にどっぷりと浸れます。


すべて真夜中の恋人たち

すべて真夜中の恋人たち 講談社  1,680円

芥川賞受賞後、精力的に活動している川上未映子さんの新作です。好評だった前作『ヘブン』(講談社)はいじめにあっている少年が主人公でしたが、今回は30代のフリー校閲者が主人公。人と接するのが苦手で、学校でも勤めていた会社でも、うまく人間関係を築くことができない女性です。小説の主人公というと頑張っている人やきらびやかな人が多いものですが、それとは正反対。世界の片隅でひっそりと生きているようなタイプです。そんな彼女が50代の男性と知り合い、少しずつ相手の内面を手探りしていくうちに変化していきます。どんな人も孤独を抱えて生きているということや、自分の中にある深い孤独に気づかされます。


ラブレス

ラブレス 新潮社  1,680円

北海道の貧しい家庭で親からの愛情を受けずに育った女性が、中学を卒業後奉公に出されますが、あるきっかけで旅芸人の一座に入り、波乱に満ちた人生を送ります。娘からも妹からも距離を置かれ、孤独死寸前の状態から物語は始まります。他人の目には不幸そうに見える人生ですが、懸命に力強く生き抜く姿に、幸せとはなにか、生きるとはどういうことなのか考えさせられました。徐々に注目を集め、人気が出てきた作品です。今後ベストセラーになっていくのではないかと期待しています。


平成猿蟹合戦図

平成猿蟹合戦図 朝日新聞出版   1,890円

映画化され話題になった『悪人』の著者、吉田修一さんの新作です。作品ごとに異なる作風でいつも読者を楽しませてくれますが、本作はこれまでの作風がミックスされている感じがおもしろいです。新宿で起きたひき逃げ事件をきっかけに、年齢も経歴も職業も異なる男女8人が知り合いになります。そのうちのひとり、歌舞伎町で働くバーテンダーを政治家にして社会を変えようと動き出します。この8人は、大きなコンプレックスを抱えていたり、裏社会とつながっていたり、平凡な市民とはちょっと違う面々。癖のある人たちですが、内面が明らかになってくると彼らに親近感や共感をおぼえます。奇想天外な転がり方を見せるストーリー展開が見事です。


マザーズ

マザーズ 新潮社 1,995円

20歳で芥川賞を受賞した金原ひとみさん。結婚し、2児の母となった金原さんが自身の経験を生かして書き上げた「母親」の物語です。密室育児に疲れ我が子を虐待する主婦、夫との関係がうまくいかず不安をドラッグで紛らわせる作家、不倫相手の子を身ごもってしまうモデル。社会の常識からすれば良い母とはいえない三人ですが、孤独を抱え、子どもを愛し、懸命に生きる女性でもあります。世間で語られる母性とは違う母親の感情や姿を描いた迫力ある小説でした。男性にもぜひ読んでいただきたい作品です。


なぎさホテル

なぎさホテル 小学館  1,470円

『大人の流儀』(講談社)、『いねむり先生』(集英社)がベストセラーとなり、文芸書売上ランキングの上位に入っている伊集院静さん。昔からのファンだけでなく、若い世代にまで人気が広がってきているのを感じます。タイトルの『なぎさホテル』は、湘南に実在したホテル。失意の底にあった若き日の著者は、支配人や従業員に見守られながら、ここで7年間という時間を過ごし自分の生きる道を模索しました。昭和のあたたかさと懐かしさに満ちた作品で、伊集院静という人の他社には真似できない生き様がたちのぼってくる随想です。対談やエッセー、短編を収録した『伊集院静の流儀』(文藝春秋)とセットでぜひ読んでいただきたいです。


みえない雲

みえない雲 小学館文庫  600円

チェルノブイリの原発事故の後に発売され、ドイツでは長く読まれているヤングアダルト向けの小説です。主人公は14歳の少女。両親が旅行中に原子力発電所が爆発し、街中がパニックになるなか、幼い弟を連れて避難します。福島原発の事故とはだいぶ状況も違うのですが、つい重ねて読んでしまう部分も多く、ハッとさせられます。被爆した人の感情や事故の恐ろしさ、人々はどう生きていくのか、それらが少女の視点で描かれています。このような事故の後なので、読むのを避けたくなる気持ちもあると思いますが、フィクションだからこそ語れること、考えさせられることがたくさんある小説です。


桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活

桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活 文藝春秋  1,600円

『シューマンの指』の奥泉光さんの新作は、毛色の違った学園もののユーモアミステリーです。主人公の桑潟幸一(クワコー)は文学部の准教授。顧問を務める文芸部の女子大生探偵と謎をといていきます。そう聞くと、頭脳明晰な准教授と美人大学生の組み合わせを想像しますが、これがまったく違うのです。舞台となる大学は、千葉にある4流大学。やる気がなくて、友達もおらず、心が狭く、保身のことばかりを考えるクワコーに、最初はイライラさせられますが、そのうち小者ぶりがかわいく見えてくるから不思議です。コスプレ好きの超個性的な部員たちがとにかくインパクトあります。彼女たちの会話がおもしろく、読んでいると笑いが止まりません。不


いねむり先生

いねむり先生 集英社 1,680円

伊集院静さんの自伝的小説。妻を病気で亡くし、生きる気力がわかない作家が、同じく作家でナルコレプシー(眠り病)を患っている「いねむり先生」こと色川武大と出会います。阿佐田哲也の名前でギャンブル小説も書いているいねむり先生と主人公が、旅をしながら競輪場をまわります。先生に振り回されながらも、さりげない優しさに少しずつ変化していく主人公。人と人との温かな空気が感じられる作品です。人気作家で名前も知られている伊集院静さん。昨年から作家活動が盛んで『大人の流儀』(講談社)も出たばかり。まだ読んだことがない人は、この機会にぜひどうぞ。


雑司ヶ谷R.I.P.

雑司ヶ谷R.I.P. 新潮社 1,680円

雑司ヶ谷(東京・豊島区)という実在する街を舞台にしたハードボイルド小説です。国家に絶大な影響力を持つ宗教団体をつくった教祖の孫が主人公。1作目『さらば雑司ヶ谷』で雑司ヶ谷を離れた主人公が、再び戻ってきます。そこで起こる新たな事件を描きながら、宗教団体がなぜ雑司ヶ谷に根を張っていったのかを明らかにします。ハードでグロテスクな暴力的描写は迫力満点。独特の世界観は、この2作目でよりはっきりと構築されたように感じます。あとがきによると、続編を何作か予定しているとのこと。まずは1作目から読んで、多くの方にこの小説のファンになってもらいたいです。そして続編を楽しみに待ちましょう。


盤上のアルファ

盤上のアルファ 講談社 1,575円

小説現代長編新人賞を受賞。家もなく、職もなく、友人もいない孤独なフリーターの男が、30代からプロの棋士を目指す物語です。将棋の才能はあるけれど、あとは何も持っていない。それどころか人間的にちょっと問題がある主人公と、同じく問題を抱えた地方新聞の将棋担当記者が、将棋を通して心を通わせていきます。最初のうちは、主人公に好感が持てなかったのですが、読んでいくうちに引き込まれ、応援したくなりました。ルールも知らない私ですが、将棋の世界をのぞき見ることができておもしろかったです。将棋好きの人はもっと楽しめるはず。


錨を上げよ 上

錨を上げよ 上 講談社  1,995円

戦後に大阪に生まれた男を主人公にした青春小説です。乱暴で女好きで、品がなくて、とにかくしょうもない男なのですが、考え方と行動力がとにかく破天荒。何度も停学を食らったり、チンピラの子分になってみたかと思えば、大学に入学したり、密漁船でひとかせぎしてみたり・・・。次々に恋をしては勝手なことをする主人公に腹を立てつつも、次に何をやらかすのだろう?と気になってしまい、主人公が好きになっていきました。人に迷惑をかけず、平和な日々を送ることを心がけていますが、この小説の主人公のように思い切り体当たりして突き進む人生にも憧れを感じます。


悪の教典 上

悪の教典 上 

「このミステリーがすごい!」と「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位を獲得した作品です。主人公は高校教師の男性。最初はよい印象を抱くのですが、読んでいくうちに彼の闇の部分が明らかになってきます。前半は主人公の目線で描かれているせいか、寒気がするような恐ろしい行動にも、共感を覚えてしまう瞬間がありました。読者をそのような気持ちにさせる小説の力に驚きます。本書は上下巻ある長い作品なので尻込みする方もいらっしゃるかもしれませんが、読み出すと止まらないおもしろさです。予想をはるかに超える驚愕のラストが待っています。


抱擁、あるいはライスには塩を

抱擁、あるいはライスには塩を 集英社  1,785円

東京・神谷町のふるい洋館に住むある風変わりな一族の3世代の物語です。ロシア人の祖母、叔父や叔母、共に暮らす兄弟でありながら父や母の違う子どもたち、学校に行かない独特の教育方針・・・。家族一人一人の物語を読みすすめるうちに、各人の関係や性格、家族に起った出来事がわかってきます。家族に共通する高い美意識、時代の空気が描かれているところが魅力的です。読みながら、うっとりしたり、ドキドキさせられたり、なぜか懐かしさを感じたり、ひきこまれる小説です。江國香織さんは女性に人気が高い作家ですが、この新作は男性にもおすすめしたいです。


隻眼の少女

隻眼の少女 文藝春秋 1,995円

ふだんミステリを読まない人にもぜひ読んでいただきたい、麻耶雄嵩(まやゆたか)さんの本格ミステリーです。因習の深い村でおきた首斬り殺人の捜査に当たるのは、平安時代のように古風な装束を身にまとった美少女探偵。衣装と高飛車な性格が印象的ななので、キャラ萌えしたい人にもオススメです。横溝正史を思い出すようなおどろおどろしさ、次々にひっくり返る真実・・・。夢中になっていっきに読みました。結末を知った時は、思わず声を出して驚いてしまいました。


勝手にふるえてろ

勝手にふるえてろ 文藝春秋 1,200円

19歳のとき最年少で芥川賞を受賞した綿矢りさんの3年ぶりの新作です。これまでは少女を主人公にした小説を書いてきた綿矢さんですが、本作の主人公は著者と同じ26歳。主人公には、好きだと言ってくれる同僚の男性と、10年以上思い続けている中学時代の同級生がいます。元・腐女子で恋愛にうといため、勘違いな行動をとったり、意味不明の行動をとったり、それがコミカルで笑えるのですが、時々イライラさせられたり、共感を覚えるところもあったり。女性読者は、言葉ではうまく説明できない感情を露にされ、爽快感と恥ずかしさをおぼえるはず。男性読者は身近にいる女性の不可解な行動が理解できるようになるかもしれません。


シューマンの指

シューマンの指 講談社 1,680円

著書の奥泉光さんは、純文学にエンターテインメントの要素を入れ込むのが上手。本作にも音楽、青春、ミステリーとさまざまな要素が入っています。音楽を愛する高校三年生の少年が主人公で、彼の高校に美少年の天才ピアニストが転校してきます。シューマンの音楽論としても読み甲斐があり、人間関係のおもしろさも描かれています。全編に漂う耽美的なムードがすばらしく、ミステリーとしても秀逸。何重にも仕掛けがしてあるので、読み終わった後、読み返したくなるほどです。ミステリー好き、音楽好き、いろいろな方に楽しんでいただける作品です。


リア家の人々

リア家の人々 新潮社 1,680円

戦時中から戦後を舞台にした、明治生まれの文部官僚一家の物語。発売されたばかりですが、今後書評などで話題になっていきそうな本です。戦後、公職追放される父、家族を必死で守ってきた妻の死、子供から自我を持つ大人の女性へと成長していくキャラクターの違う三人の娘。一つの家族の歴史が戦争から学生運動へ至る時代の大きな流れとリンクしながら描かれています。一歩引いた目で学生運動を見ている末娘の生き方が特に興味深いです。学生運動をテーマにした小説は多いですが、こういう視点で描いた物はあまりないので新鮮でした。


悪貨

悪貨 講談社  1,680円

偽札を拾ったホームレス、捜査に当たる美人すぎる刑事、怪しげな宝石商、共同体「彼岸コミューン」の男ーー。島田雅彦さんの新作は「貨幣とはいったい何か」を考えさせられる「愛とお金の物語」です。一度読むと一気に最後まで読みたくなるようなスピード感とおもしろさがあります。ビジネス街にある丸の内本店では金融小説や経済小説とても人気のあるジャンルです。純文学作家である島田雅彦さんが書いた経済小説は、他の作品とはひと味違った魅力があります。


キング&クイーン

キング&クイーン 講談社  1,680円

スパイを主人公にした『ジョーカー・ゲーム』『ダブル・ジョーカー』が大人気の著者・柳広司さんの最新作です。本作は警察官を辞め六本木のバーで働く元SPの女性が、チェスの元世界チャンピオンを警護する話ですが、今回も前回同様、わくわくするような頭脳戦が繰り広げられています。SPとチェスプレイヤーでは分野が違いますが、どちらも優れた決定力や判断力が必要な職業。そんな二人を登場人物にした本作は、知的な刺激に満ちています。はっとする結末もお見事。あまり知らなかったチェスの世界がのぞけるのもおもしろかったです。主人公の元SPの女性はかなり魅力的なので、「ジョーカー」のようにシリーズ化してほしいと願わずにはいら


下流の宴

下流の宴 毎日新聞社  1,680円

格差社会をテーマにした、林真理子さんの新聞連載小説が単行本になりました。自分は中流出身だと思っていた40代の主婦が主人公。高校を中退した長男は二十歳をすぎてもフリーターのまま。しかもオンラインゲームで知り合った年上の女の子と付き合い、結婚したいと言い出します。階級とはなにか、格差社会の問題を正面からとらえた作品。女性の本音を赤裸々に綴った作品が多く、女性人気が高い林さんですが、本作は男女問わず考えさせられるストーリーです。読者は登場人物の誰かに自分を重ねて読んでしまうはず。


モンスター

モンスター 幻冬舎  1,575円

百田尚樹さんの新作です。まもなく映画が公開される高校ボクシング部を舞台にした『ボックス!』、デビュー作の『永遠の0(ゼロ)』とは毛色の違う作品。醜い容姿だったため、幼い頃から友達もできず、いじめられ、誰からも愛されたことがなかった女性が主人公です。大人になって整形手術を受けた彼女は、悲惨な思い出しか残っていない故郷の町に戻ります。町一番の美女となった彼女が、どうしても会いたかった人とは・・・。痛快さと悲しさ、切なさの混じったストーリー。容姿に翻弄される男と女の愚かしさや、容姿をネタにした冗談や悪口が人の心をどれだけ深くえぐるのか考えさせられました。