著書の奥泉光さんは、純文学にエンターテインメントの要素を入れ込むのが上手。本作にも音楽、青春、ミステリーとさまざまな要素が入っています。音楽を愛する高校三年生の少年が主人公で、彼の高校に美少年の天才ピアニストが転校してきます。シューマンの音楽論としても読み甲斐があり、人間関係のおもしろさも描かれています。全編に漂う耽美的なムードがすばらしく、ミステリーとしても秀逸。何重にも仕掛けがしてあるので、読み終わった後、読み返したくなるほどです。ミステリー好き、音楽好き、いろいろな方に楽しんでいただける作品です。
戦時中から戦後を舞台にした、明治生まれの文部官僚一家の物語。発売されたばかりですが、今後書評などで話題になっていきそうな本です。戦後、公職追放される父、家族を必死で守ってきた妻の死、子供から自我を持つ大人の女性へと成長していくキャラクターの違う三人の娘。一つの家族の歴史が戦争から学生運動へ至る時代の大きな流れとリンクしながら描かれています。一歩引いた目で学生運動を見ている末娘の生き方が特に興味深いです。学生運動をテーマにした小説は多いですが、こういう視点で描いた物はあまりないので新鮮でした。
偽札を拾ったホームレス、捜査に当たる美人すぎる刑事、怪しげな宝石商、共同体「彼岸コミューン」の男ーー。島田雅彦さんの新作は「貨幣とはいったい何か」を考えさせられる「愛とお金の物語」です。一度読むと一気に最後まで読みたくなるようなスピード感とおもしろさがあります。ビジネス街にある丸の内本店では金融小説や経済小説とても人気のあるジャンルです。純文学作家である島田雅彦さんが書いた経済小説は、他の作品とはひと味違った魅力があります。
スパイを主人公にした『ジョーカー・ゲーム』『ダブル・ジョーカー』が大人気の著者・柳広司さんの最新作です。本作は警察官を辞め六本木のバーで働く元SPの女性が、チェスの元世界チャンピオンを警護する話ですが、今回も前回同様、わくわくするような頭脳戦が繰り広げられています。SPとチェスプレイヤーでは分野が違いますが、どちらも優れた決定力や判断力が必要な職業。そんな二人を登場人物にした本作は、知的な刺激に満ちています。はっとする結末もお見事。あまり知らなかったチェスの世界がのぞけるのもおもしろかったです。主人公の元SPの女性はかなり魅力的なので、「ジョーカー」のようにシリーズ化してほしいと願わずにはいら
格差社会をテーマにした、林真理子さんの新聞連載小説が単行本になりました。自分は中流出身だと思っていた40代の主婦が主人公。高校を中退した長男は二十歳をすぎてもフリーターのまま。しかもオンラインゲームで知り合った年上の女の子と付き合い、結婚したいと言い出します。階級とはなにか、格差社会の問題を正面からとらえた作品。女性の本音を赤裸々に綴った作品が多く、女性人気が高い林さんですが、本作は男女問わず考えさせられるストーリーです。読者は登場人物の誰かに自分を重ねて読んでしまうはず。
百田尚樹さんの新作です。まもなく映画が公開される高校ボクシング部を舞台にした『ボックス!』、デビュー作の『永遠の0(ゼロ)』とは毛色の違う作品。醜い容姿だったため、幼い頃から友達もできず、いじめられ、誰からも愛されたことがなかった女性が主人公です。大人になって整形手術を受けた彼女は、悲惨な思い出しか残っていない故郷の町に戻ります。町一番の美女となった彼女が、どうしても会いたかった人とは・・・。痛快さと悲しさ、切なさの混じったストーリー。容姿に翻弄される男と女の愚かしさや、容姿をネタにした冗談や悪口が人の心をどれだけ深くえぐるのか考えさせられました。